こんな表を処理するコードを書くとします。
このコードのメンテナンス性を向上させるテクニックとして、
以下のように列挙型変数Enumを用いる方法があります。
Cells(R, 4) = Cells(R, 2) * Cells(R, 3) ' ↓Enumを使って書き替える Cells(R, C_売上データ.売上) = Cells(R, C_売上データ.価格) * Cells(R, C_売上データ.個数)
「売上=価格×個数」というのがコードを見てわかるようになりますね。
さてこのEnum法も非常に強力なのですが、同じくらい便利な方法として、
Dictionaryを活用する方法がありますので紹介します。
※ Dictionaryを用いる方法はEnumより難易度が高いので、
まだEnumを使ったことがない方は先にEnumを勉強することをおすすめします。
◇ Enumによる列番号管理の入門記事はこちら
www.limecode.jp
- Dictionaryで列番号を管理するコード
- Dictionary法のメリット(Enumより優れる点)
- Dictionary法のデメリット(Enumより劣る点)
- Dictionaryの生成を汎用関数にする
Dictionaryで列番号を管理するコード
Dictionaryで列番号を管理するには、
「Keyに見出し名/Itemに列番号」を格納する以下のコードを使用します。
Sub Dictionaryで列番号を管理する() Dim ws As Worksheet Set ws = Worksheets("売上データ") ' 列番号用のDictionaryを生成 Dim C_売上データ As New Dictionary ' 見出しセルをループしてkeyに見出し名、itemに列番号を格納 Dim C As Long For C = 1 To ws.UsedRange.Column + ws.UsedRange.Columns.Count - 1 If C_売上データ.Exists(ws.Cells(1, C).Value) = False Then C_売上データ.Add ws.Cells(1, C).Value, C End If Next ' その後の処理はこう書ける Dim R As Long For R = 2 To ws.UsedRange.Row + ws.UsedRange.Rows.Count - 1 ws.Cells(R, C_売上データ("売上")) _ = ws.Cells(R, C_売上データ("価格")) * ws.Cells(R, C_売上データ("個数")) Next End Sub
上記のようにKeyに見出し名/Itemに列番号を格納したDictionaryを用意すれば、
セルの指定を
ws.Cells(R, C_売上データ("売上")) _ = ws.Cells(R, C_売上データ("価格")) * ws.Cells(R, C_売上データ("個数"))
このように「見出し名の文字列を渡すことで実装できる」ようになります。
Enum同様に可読性が高く、もちろん改修にも強いので、
この方法も知っておくといいですね。
Enum法とDictionary法それぞれのメリットデメリットを比べると以下の通りです。
Dictionary法のメリット(Enumより優れる点)
列の追加/削除に対する改修が不要
例えばB列に「種別」という列が追加されたとき、
Enumの場合は以下の書き換えが必要になります。
Enum C_売上データ 品物 = 1 種別 ' ←ここに種別を追加する 価格 ' ↓ここから下は自動的に3,4,…と再採番される 個数 売上 End Enum
これだけで改修が終わるのでEnumも十分強力なのですが、
さらにDictionaryでは一切の改修が不要になります。
見出し名-列番号のペアを実行の度に取得しているため、
列のレイアウトが変更されても問題なく動作するわけですね。
この「列名を見ている」というのが、Dictionary法の一番のポイントになります。
まずはこの点を抑えておきましょう。
同一マクロを複数のシートに使用できる
上記のコードを↓のシートに実行してみましょう。
なんとまったく同じコードのまま実行できることがわかります。
見出し名-列番号のペアさえ合っていれば動くわけで、
列の追加対応が不要なのと同じ理屈ですね。
同じコードをレイアウトの異なるシートに対して実行できるという点は、
Enum法では難しいDictionary法の非常に強力なポイントです。
「似たシートをひとつのまとめシートに集計する」マクロなど、
この長所が活かせそうな場面では積極的にDictionary法を採用したいですね。
シンタックスハイライトによる可読性
VBE(コードを書く画面)の文字色設定を活用している場合は、
ws.Cells(R, C_売上データ("売上")) _ = ws.Cells(R, C_売上データ("価格")) * ws.Cells(R, C_売上データ("個数"))
このように「色がついた部分でコードを読む」ことができます。
私の設定の場合は、黄色だけ見てもコードが読めるということですね。
これも地味ながら便利な点だと思います。
※VBEの設定を行う方法はこちらを参考ください。
以上がDictionary法の主なメリットになります。
特に「同じコードをレイアウトの異なるシートに対して実行できる」というのが、
Dictionary法の最大のメリットですので覚えておきましょう。
Dictionary法のデメリット(Enumより劣る点)
反対にDictionaryがEnumに比べて劣る点が以下の通りです。
列見出し名を変更するとマクロが動かなくなる
列の挿入/削除には強いDictionaryですが、逆に列名の変更に弱くなってしまいます。
例えば「価格」を「単価」に変更してしまうと、
C_売上データ("価格")
これが0を返すようになってしまい、Cellsの指定部分で
アプリケーションまたはオブジェクト定義のエラー |
が発生してしまいます。
列見出し名と列番号のペアを使ってコードを書いているため、
このリスクに対応するのはEnumより難しくなります。
コーディング時に入力候補(インテリセンス)が使用できない
Enumの非常に強力なメリットである、
この入力候補の活用がDictionaryにはできません。
列名をいちいちタイピングする必要がありますし、
大量のセル指定があると、「"」2回の入力も割と面倒に感じます。
同名の列を指定できない
よくあるこんなシート↓
これをDictionary法では指定することができません。
「Dictionaryのためにこのレイアウトをやめろ」
というのはややVBA原理主義が過ぎる気がするので、
こんなシートを処理する際は、DictionaryはあきらめてEnumを使いましょう。
Enumなら割ときれいな設計になりますし、
入力リストもわかりやすくなります。
Enumは実際の列番号をコーディング中に見れる
これはDictionary法のデメリットというよりはEnumの小ワザという感じなのですが、
Enumにはクイックヒント「Ctrl+i」を使った、
この列番号の表示機能があります。
意外と役立つときがあるので覚えておくといいかもしれません。
プロシージャ(Sub/Function)分割への対応が必要
Dictionaryはコード内で生成したものを使用するため、
プロシージャを分割する場合はそのままでは使えません。
いちいち全プロシージャに引数に渡すのも大変なのですが、
モジュール変数にすると各プロシージャを単独実行できなくなるため、
マクロに応じて対応を決める必要があります。
Enumに比べて準備がやや大変
機械的に定義すればよいEnumに比べて、
DictionaryはFor文を書く必要があるのでコーディングが少し大変です。
その対策として、後述の「汎用関数化」が重要になります。
実際にDictionary法を常用するなら、この準備は必須といっていいかもしれません。
Dictionaryの生成を汎用関数にする
Dictionaryの「準備が大変」というデメリットを解消する方法として、
以下のように汎用関数化する方法があります。
' 列番号をDictionaryに格納する汎用関数 Function GetDic列番号リスト(ws As Worksheet, 見出し行 As Long) As Dictionary Set GetDic列番号リスト = New Dictionary Dim C As Long For C = 1 To ws.UsedRange.Column + ws.UsedRange.Columns.Count - 1 If GetDic列番号リスト.Exists(ws.Cells(見出し行, C).Value) = False Then GetDic列番号リスト.Add ws.Cells(見出し行, C).Value, C End If Next End Function ' 実際のコード Sub Dictionaryで列番号を管理する() Dim ws As Worksheet Set ws = Worksheets("売上データ") Dim C_売上データ As Dictionary Set C_売上データ = GetDic列番号リスト(ws, 1) ' ↑汎用関数によってDictionaryの生成コードが1行になる Dim R As Long For R = 2 To ws.UsedRange.Rows.Count ws.Cells(R, C_売上データ("売上")) _ = ws.Cells(R, C_売上データ("価格")) * ws.Cells(R, C_売上データ("個数")) Next End Sub
この方法を用いればいちいちFor文を書く必要がなくなり、
スムーズにメインコードを書き始めることができるようになります。
問題だった列名の重複に関しても、
売上2,売上3,… のように連番を振る仕様を入れ込むことも可能です。
Dictionaryを採用する場合は、
必須といってもいいテクニックですので是非とも活用してください。
以上でDictionaryによる列番号管理の解説を終わります。
Enum法と同じぐらい便利で、お互いに違う長所がありますので、
マクロによって使い分けれるとより便利に使えると思います。
構造も単純でDictionaryを勉強するにもいい題材ですので、
是非皆さんのマクロにも組み込んでみてください。